日本の製造業の現状・課題を分析、再び世界で脚光を浴びるにはどうする
のか?ものづくり復活のシナリオを考えて見ます。
1章~5章目次
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1.ものづくり製造業の現状
このグラフは、2021年版ものづくり白書「我が国製造業の業績動向」を
示したグラフで、売上高、営業利益とも70~80%の企業が減少している
ことを示しています。

トヨタ自動車は2020年度も売り上げを伸ばし売上高、世界企業ランキング
でも上位の超エクセレント・カンパニーです。ところがこのような状況の
中で中小零細企業は、事業継続が危うい状態となっています。
中小製造業の近年の動向と新たな生き残り策について考えてみます。
元々日本の金型企業数は1990年代までは1万4000千社ほどありました。
それが2008年にはすでに1万社を切り、その後もじりじりと減少を続け
2018年には6900社と約1/2まで減少しています。
中国では、確かな数は把握出来ませんが、すでに2万社以上の金型メーカー
が操業していると言われています。
残念ながら日本のメーカーには、よい商品を作れば売れるはずであると
いう思い込みが強く見られます。中小企業は経営資源も乏しく、出来る
ことは限られますが、従来のようにただ、こつこつと金型を作っている
時代では無いことを自覚し、新たな生き残り対応が急務となっています。
2.スマイルカーブと付加価値工程のシフト
スマイルカーブを知っている方も多いと思います。
もともとは、電子産業などの収益構造を表す言葉の1つで,製品の組み
立て・製造工程の利益率が低いことを表現しています。例えば,製品企画
や部品の開発,サービスなどによる付加価値が大きく,機器の組み立て
などの製造工程では大きな付加価値は得られないことを指しています。
日本の金型産業は、従業者数30人未満の事業所が金型出荷額の約50%を
占めており、金型事業所数では全体の約8割は従業者数10人未満零細規模
の企業が占めています。
そして、中小・零細企業の中にこそ、世界に通用する高い技術力とともに
競争力を持つ金型メーカーが多数存在しています。
技術力を持っている中小メーカーに求められることは、バリューチェーン
の製造工程で生産システムの歯車になるのではなくオンリーワンの技術や
商品で上流または下流のビジネスを追求することなのです。
3.スマイルカーブへの対応の難しさ
こうした変化にもかかわらず、実に多くの企業がものづくり工程にこだ
わり続け、「逆スマイルカーブ」の時代に確立した組織構造を未だに
大事に維持し続けています。
日本の成長期に一旦出来上がった会社のシステムや、経営者の考え方を
変革するのは容易ではありません。また日本企業では特に、社員も運命
共同体という考え方もあって思い切った組織の改革も、人材の国際化も
遅れていたと言わざるを得ません。そこで、中小・零細企業の後を継ぐ
二世、三世の若手経営者にも期待が掛かっています。
彼らに期待することは、大胆な発想で社内の改革に取り組むことです。
4.我が国製造業の組織・人材
我が国ものづくり産業が苦戦している原因は、高い技術力を持ちながら
「企画・マーケティング」「開発・設計」や「販売」「サービス」と
いったいわゆる「スマイルカーブ」で付加価値の高い工程の競争劣位
にあることです。
そこで着目すべきは、「ヒト」「組織」を中心とした「ソフトな経営資源」
です。金型を、高い技術力によってコツコツと製作するノウハウ。これも
技術者に蓄えられた「ソフトな経営資源」の一部だと思います。今まで日本
は、この部分で付加価値を見いだし優位性を保って来ました。
今まで付加価値を生み出した「逆スマイルカーブ」の時代はこんな方程式
が成り立っていたのではないでしょうか?
製造技術力+生産管理の仕組み=付加価値
でも、中国でもCADや優秀な工作機械がどんどん導入され、だれでも、ある
一定の品質の金型を製作出来るレベルに達しているのです。価格もどんどん
下げられ、日系企業は競争力を失ってしまいました。しかしながら、この
方程式が成り立つと言う条件のまま、会社の組織や根底の考え方が、昔から
何も変わっていないのです。
一つの例を挙げてみましょう。
この組織図は、ごく一般的な会社に見られるライン組織を表しています。
下の黄色い枠は、工場の生産の流れを示しています。
まさに、上記の製造技術力+生産管理の仕組み=付加価値が成り立つ前提
の組織であることがよく分かります。
つまり、モノづくり工程に付加価値を見出そうと組織の中で必死に仕事を
続けて来ているのです。
しかし、この製造機能を主体とした組織構造では、すでに付加価値を
生み出すことはできないことは、明らかです。
5.高付加価値工程移行への具体策
中国の工場に対抗するには、「スマイルカーブ」の上流、あるいは下流
の工程で付加価値を獲得することです。
当然「組織」の形も変わっていかなければなりません。そして上流や
下流の職務を担う「人材」も育てて行かなければなりません。
これからの経営は「組織」「人材」「仕組み」から成る「ソフトな経営資
源」を保有し、それを大事に育てていくことが求められます。
言うが安し、行うは難しですが、一発逆転の特効薬はあり得ないのです。
簡単に真似されない「ソフトな経営資源」で強みを発揮すべきです。
ところが、この戦略立案・マネジメントなどの部分は、日本の中小企業の
経営者が最も苦手とする分野なのです。また大企業でも、抜きん出た戦
略立案・マネジメントによる経営を行っている経営者はほんのわずかしか
いません。それが証拠に、大手電機メーカーは総崩れ状態です。
6.「スマイルカーブ」で付加価値を生み出す方程式
逆スマイルカーブの時代からスマイルカーブの時代へ環境は急激に変化
しました。当然付加価値を生み出す方程式も変わっています。私たちは
その方程式に沿った経営システムに変えて行くことが求められています。
では、スマイルカーブの時代の方程式はどんな方程式でしょうか?
(製造技術力+スマイルカーブ下流工程の技術)×仕組み=付加価値
(スマイルカーブ上流工程の技術+製造技術力)×仕組み=付加価値
・製造技術力・・・製造技術の高度化、小ロット・短納期対応体制等
・スマイルカーブ上流工程の技術:顧客開発、製品企画、製造技術設計
・スマイルカーブ下流工程の技術:品質保証、サービス、メンテなど
・仕組み・・・新たな付加価値部門の新設、組織の統廃合・業務フロー
IT化、自動化など
この方程式は従来のものづくり技術をコアに、高付加価値工程へシフト
した組織編成人材配置、仕組みの構築を計画的、継続的に行っていく
地道な努力が必要になります。
5年後を見据えた組織の形を考えてみます。
例えばスマイルカーブ上流工程の技術(新規顧客開発、製品企画、製造技術設計)
などを強化した構成となっています。
この組織では、開発部門の人員を大幅に増員し、製造部門は縮小します。
加工は外注化を促進し、ファブレス製造業を目指します。
しかし、この組織は、すぐに実現できるものではなく、人材育成を推進し
開発人材を育てていく必要があります。
今から計画し5年後を狙った組織形態とします。
7.外部資源の活用
企業の改革は、トップがまず頭を切り換えて、今までの固定観念に捕ら
われない柔軟な発想と行動が求められます。それに加え、経営資源の
乏しい中小企業は、「外部の力」を利用することが大切です。1社だけ
の力では、とうてい改革は困難なことは明らかです。
その対応例としては外部資源をうまく活用することを薦めます。
8.結び
ものづくりが得意な日本の企業は、どうしても「品物」に目が行って、
目に見えないものを苦手とし「経営戦略」「マネジメント技術」など
「ソフトな経営資源」を蓄える事を怠ってきました。
普通のものづくりは、もう発展途上国に任せて、「ソフト」の重要性に
気付き、いかに「ソフト」で差を付け、付加価値を得るかを真剣に考える
べきです。
世界一の「ものづくり技術」と、新たに「ソフト」が融合すれば日本の
ものづくりは誰にも負けないものとなって、再び世界の中で脚光を浴びる
でしょう。