FMEA解析とリスク評価:イグニッションスイッチ発煙対策事例

FMEAは、故障モードをすべて抽出し、その発生頻度はどれくらいか、設計
工程で検出可能か、発生が予される故障が、市場でどのような影響(リスク)
を与えるのかの3項目について評価し、その程度によって、対策の方法を決定
するものです。


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1.発煙事故の事例
国土交通省「平成 27年度リコール届出内容の分析結果について」より
事故につながった事例を紹介します。

イグニッションスイッチにおいて、接点部に使用するグリスが不適切なため
可動接点が固定接点から離れる際のアーク放電の熱によりグリスが炭化すること
がある。そのため、そのまま使用を続けると、グリスの絶縁性の低下と可動接点
の摩耗による金属粉の堆積により接点間が導通し、発熱することでグリスが発煙
し、最悪の場合、火災に至るおそれがある。

2.発煙事故発生状況と要因の絞り込み
この問題は、グリスが熱により炭化し、そのため接点間が導通し、その発熱に
よりグリスが発煙に至ったという不具合です。           
「グリスの選定不適切」⇒「接点のアーク放電」⇒「グリスの炭化」⇒「グリス
の絶縁性の低下と可動接点の摩耗による金属粉の堆積」⇒「接点間が導通」と
いう物理的なメカニズム(因果関係)により発煙に至っています。

設計の仕組み図.jpg

イグニッションスイッチ部の発煙事故は、可動接点部に使用するグリスの
定が不適切で、耐熱性の低いグリスを選定したために、炭化して導通による
発熱、発煙に至ったものです。

これは、設計時において、事前にこのような発煙事故を予測できなかった、また
短期間の評価テストでは、グリスが炭化しなかったために不具合現象は発生せず
設計ミスは発見できなかったものと考えられます。 
結果的に、市場において不具合が発生し、リコールを余儀なくされました。

3.信頼性・安全性設計手順
事故や災害につながる起こしてはならない不具合、想定外の不具合を未然に防止
する設計フローを示します。ここでは、予測できない不具合をすべて洗い出し、
市場では絶対に事故や災害を起こさない設計プロセスを確立します。

設計プロセス.jpg
この設計プロセスで重要なポイントは、設計技術者が、設計ミスによって市場で
どのような問題の発生が予想され、どのような経済的損失(リスク)が生じる
だろうか?と考えることです。(顧客志向)

下図は、設計者が行ったFMEA評価表と、リスクアセスメントによるリスクを
考慮した総合判定表を示しています。

FMEA評価表.jpg

総合判定表.jpg

4.R-MAP手法によるリスク分析とリスク評価
R-Map手法は日本科学技術連盟によって開発され、リスクを「見える化」する
手法としてその有効性が広く認識されています。

R-Mapは、縦軸に「発生頻度」、横軸に「危害の程度」を表すマトリックスで、
受入れられないリスク領域、条件付きで受け入れられる領域、安全領域を視覚的
に表現したものです。

信頼性解析手法としてFMEAやFTA等の解析手法が広く利用されています。しかし
リスクの大きさを評価し、定量化する過程において、その数値的根拠に乏しいため
に、結果として正しい評価が実施されないという事例が散見されます。
ここでいう、正しい評価とは、「製品の機能、価格、開発期間、製造コストなど
の制約条件下において、使用者や社会が被る事故や災害を最小に食い止める」
ことにほかなりません。評価基準は製品ごと、製品が投入される市場の動向、
および人材や技術力、財務等の企業の能力によって独自に設定されるものであって
一義的に規定できるものではありません。
かつては許容されるリスクの範囲であったものが安全に対する社会的要求の
高まりから、より高度な安全対策を製品側に求められるようになる場合があります。
このため、R-Map手法を採り入れることによって、評価基準の根拠を明確化、
数値化することが可能となります。

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 合同会社高崎ものづくり技術研究所代表の濱田です。
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 設計、製造、品質管理、海外工場管理などの実務経験45年
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