人手不足でも賃金が上昇しない4つの理由?:求められるマーケット感覚と生産性向上:売上・利益アップ事業計画の進め方

現在、日本は空前の人手不足となっており、本来であれば、企業は人員の確保を最優先
しますから給料も上がっていくはずです。ところが、人手不足が深刻になっているにも
かかわらず、給料はあまり上がっていません。なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
  1章~5章目次

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その要因について4つの項目について分析してみます。

1.人手不足と雇用のミスマッチ
給料がなかなか上がらない理由を探るためには、そもそも人手不足が何によって引き起こ
されているのかについて知っておく必要があります。
東京大学の玄田教授は、原因は企業の方針や政府の政策ではなく「構造的な問題」と指摘
しています。
景気が良くなると、企業には多くの注文が寄せられ、注文をさばくためには優秀な人材を
確保しようと躍起になりますし、他社に社員を奪われないように給料は上がっていきます。
しかし、今の日本で発生している人手不足は好景気ではなく、まったく別のメカニズム
よってもたらされています。

(1)職業的なミスマッチ
内閣府の資料によると「人手不足」には偏りがあることがわかります。
例えば、人手不足なのは、「運輸、郵便」「サービス」「医療、福祉」「宿泊、飲食サー
ビス」「建設」などの、低賃金で労働集約的な業種の中小企業に集中しています。

例えば、内閣府の調査では、かつて雇用の大きな吸収源であった、事務職などの「誰でも
できて、それなりのお金がもらえる仕事」は人が余っています。
それに対して介護、飲食などの「構造的に儲からない仕事」は待遇が悪いため人手不足です。
また、「高賃金」の専門人材、例えば情報通信業も、人手不足が続いています。

雇用のミスマッチについて、ハローワークの職業別の有効求人数と有効求職者数の差をみると
介護や飲食関連職での有効求人数が大幅に超過となる一方で、一般事務の職業は大幅に有効
求職者数が超過となっているなど、職業別のミスマッチが生じています。

(2)年齢的なミスマッチ
日本では総人口の減少が本格化しますが、過去10年の人口はほぼ横ばいに近い状態でした。
しかし人口が変わらなくても高齢化は進んでいましたから、若年層の人口は減る一方でした。
過去10年間で35歳以下の労働者の数は17%も減少しているのです。

外食産業や小売店など企業の現場では若い労働力が必要となりますが、彼等の絶対数が2割
近く減ってしまったわけですから、企業が人の確保に苦労するのは当然の結果といってよい
でしょう。

しかし、若者の背後には、退職した低賃金の大量の高齢者が、潜在的な競争相手として存在
しています。その影響を受けて、人手不足であるはずの若者、特に正規雇用以外の若者の
賃金まで、伸び悩んでしまっています。

(3)日本的雇用慣習
しかし、社会全体で見ると、多くの日本企業はまだまだ過剰な人材を抱えています。
いわゆる「働かないオジサン」に代表される、社内では仕事を見つけ出せない人が多数在籍
しているのです。高い年齢に達した社員の場合、簡単に解雇や配置転換、あるいは賃下げ
することはできませんしある一定の給料を払い続けなければなりません。

こうした負担が経営の重荷となっており、社員の昇給にお金が回らないというのが現実なの
です。先進諸外国の賃金は、同じ仕事でも日本より高いというケースがほとんどですが、最大
の理由は企業が余剰人員を抱えていないからです。

日本においても、転職をもっと活発にし、雇用を流動化すれば、あっと言う間に給料は跳ね
上がるかもしれません。しかしながら雇用を流動化してしまうと、失業する人が増えるという
問題も発生します。

日本企業の多くは正社員の雇用を守ることを最優先しており、結果として企業は過剰雇用を
解消できません。この過剰雇用が賃金が上がらない理由一つとなっているのです。

(4)外国人労働者受け入れの問題
政府が進める外国人労働者の受け入れ拡大に対して、日本の労働者の賃金上昇を抑制している
との指摘が出ています。政府が外国人労働者受け入れを進めるのは人手不足が深刻化している
ためですが、労働力の供給が増えることで企業同士による労働者の獲得競争が弱まり、上がる
はずの賃金が上がらなくなるという論法です。

一方、賃上げが進まない要因は上記(1)~(3)の通り、多岐にわたり、外国人労働者受け
入れを抑制するだけで解消する問題ではないと考えられます。外国人労働者は現在、日本の
労働者全体の2%程度でしかない。しかしながら国民感情も見据えながら、急ぎすぎない対応
が求められます。

さて、この4つの項目は、一般的に論じられている賃金が上昇しない理由と言われています。
しかし、これらは、表面的な理由であって、本当はもっと本質的な原因があると考えられます。

一体それは何でしょうか?

2.今後の企業経営と賃金のあり方
企業においても、厳しい環境変化の中で、新しい方向性を打ち出して、業績を向上させる
ためのを方策を講じていく必要があると考えられます。

(1)企業のマーケット感覚
全く稼げない企業は、マーケット感覚が欠如しているケースが圧倒的に多いと感じます。
例えば今の時代は、人工知能や新素材などの専門企業は稼げても、一般的な金属加工業
やアッセンブリー企業はそれほど利益率は高くありません。

要するに、専門性が高ければよいのではなく、「マーケットがある上での専門性」である
必要があります。ところが、中小企業は往々にしてマーケットを見る目がないため、
「こんなに専門的な技能を持っているのに報われない」と、的外れな不満を持ってしま
うのです。

また、20年前は専門分野として通用した技術も、時代の流れで鎮撫化し、新しい技術
を取り入れなければ、食えなくなってしまいます。
消費者のサービスに対する要求レベルが上ったため、稼ぐためには技術的能力とマーケッ
ト感覚が必須とされる世の中になっています。

(2)生産性向上と人財育成
労働生産性は、労働投入量(総労働時間数または従業員数)1 単位あたりの付加価値額
表すことができます。このため、労働生産性向上に向けた取り組みは、分母を減らす
(労働投入量を節約する)取り組みと、分子を増やす(付加価値額を増大する)取り組み
の 2 つに大別されます。

分母を減らす取り組みとしては、ビジネスプロセスの見直しやIT化などの省力化投資が
考えられます。一方、分子を増やす取り組みとしては、稼働率の引き上げや新商品・サー
ビスの開発、新事業展開など利益率の高い分野へのシフトがあります。
 (イ)労働投入量の節約 ・・・ 分母を減らす取り組み
   (A) 「省力化投資」
   (B) 「ビジネス・プロセスの見直し」
 (ロ)付加価値額の増大 ・・・ 分子を増やす取り組み
   (C) 「新たな商品・サービスをはじめ、利益率の高い分野へのシフト」
   (D) 「稼働率の引き上げ」

つまり、今までの部分的な改善活動に留まらず、圧倒的な生産性の向上を目指し、その
分浮いた人材を新たな商品・サービス分野へシフトし、利益率を高める努力が必要と
考えられます。

企業は魅力ある商品・サービスを世に生み出して消費を活発化させることで利益が拡大
し、経済の好循環が生まれます。
そのために今どうするか?知恵を出さなけれなければならないと思います。

(3)メリハリの効いた賃金制度
従業員に対しては、月給が下がることは抵抗感が大きいが、ボーナスの増減はそうでも
ないと思えます。人手が足りなくなったり、業務量が増えたときには、企業は月給アップ
に代わってボーナスをたくさん支払うことも必要と考えます。

反対に将来人手が余ったり、仕事が暇になるようだったら、今度は柔軟にボーナスを削減
して我慢してもらう。そんなメリハリの効いた特別賞与の活用を、企業はもっと考えた
ほうがよいのかもしれません。
また、一定の範囲内で増減するゾーン型の賃金制度に変更する企業も現れているとの指摘
もあります。

しかし(2)で述べた通り、生産性向上により付加価値業務へのシフトによって賃金も
上昇させることが、少子化が進むこれからの日本企業に課せられた課題ではないかと
考えます。このことが、将来の日本は消費が拡大し企業業績も良くなる好循環が期待で
きます。

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