「お金の話? わからないし興味もない。製造業の仕事は良いものを安く作る
ことだ!」。かつてはこれで通用しました。
しかしながら最近、会社が何度も損失を出す製造業を目の当たりにして一つの
疑問が湧いてきました。「私たちは良いモノを安く作っているつもりだった。
それで勝てると思っていた…。でも良いモノが安くできているかどうかを、どう
やって判断していたのだろうか…」
私たちは、実のところ、原価計算や企業会計の仕組みについてきちんと学ぶ機会
を持たないまま来ました。会計を知らずにモノづくりをすることは「目をつぶっ
て車を運転する」ようなものです。
製造業の復活のためには、どうしても一定水準の会計知識が不可欠なのです。
下図は、一般的な製造業の貸借対照表(B/S)損益計算書(P/L)です。
どうやって見たら良いか?少しだけ分析してみましょう。
1.貸借対照表(B/S)の見方
貸借対照表とは、一会計期間末における企業資本の具体的な運用形態を表す資産
と、その調達源泉を表す負債及び資本を対照表示し、企業の貸借対照表日現在に
おける財務状態を表示する報告書です。
左の列の金額は借方で「資金の運用方法」右の列が貸方で「資金の調達方法」を
示しています。お金を借りたり(負債)株式を発行したり(資本)して調達され
た資金が、資産として運用されているのです。
借方の最上部にある「流動資産」とは短期間に現金化できる資産のことです。
流動性の高いものほどリストの上に書くのが貸借対照表の流儀となっています。
その下の項目が「固定資産」で土地や建物そして製造業の場合は機械装置が
大きな割合を占めています。
右側の貸方は、資金の調達方法を示しており、流動負債として仕入債務、支払い
債務、借入金などがあります。固定負債としては長期借入金、社債などがあります。
2.損益計算書(P/L)の見方
損益計算書は、経営の場で一番身近に触れる計数資料の一つですが、損益計算書
を見る場合、ただ漫然と売上、利益のみを見るのではなく、業績の傾向、構成比
率、業界平均値との比較等様々な角度から分析を行い、総合的判断が行えるよう
な習慣を身につけることが大切です。
そのためには、まず損益計算書の構造を体系的に理解することが必要です。
そこで、(1)売上原価と売上総利益(2)販売費及び一般管理費と営業利益
(3)営業外収益・営業外費用と経常利益(4)特別利益・特別損失と税引前
当期利益の四つに分類し、それぞれの意味するところを学習する事が大切です。
3.決算書における製造業の特徴
(主に色を付けた部分)
B/S:機械装置の残高が大きい
B/S:自己資本比率が43%
P/L:労務費率12.9%に対して外注費率8.9%
P/L:販管費率が18.9%
製造業のビジネスは「原材料を仕入れ、製造技術・設備を用いて加工し、販売
する」というパターンのビジネスです。
B/S面では有形固定資産に含まれる機械装置の残高が、他の業種と比較して
圧倒的に大きく、建物・建物附属設備に匹敵するくらいの残高となっています。
製造業における機械装置は製造加工の基礎となる重要な資産であることを示し
ています。
利益剰余金が蓄積されており自己資本比率が43%となっています。これは、
製造業の多くが業歴が長く、過去利益を計上してきたという事実を示しています。
次にP/Lを見てみます。労務費率12.9%に対して外注費率8.9%となっており、
製造加工に占める自社加工の割合(労務費)と外注加工の割合(外注費率)が3:2
程度であることを表しています。さらに言い換えると、中小の製造業の平均的
な外注依存度が約4割であるということです。当然、外注先は特定の事業者との
結びついていると考えられるため、ある製造業が倒産した場合には、連鎖的な
倒産が生じるリスクが想定されます。
また、売上高に占める販管費率が18.9%と低い水準にあります。製造業は
コスト削減を強いられ、販管費にまでお金を回す余裕が少ないと考えられます。
4.収益性分析について
企業が出す利益には、6種類の利益があります。
売上総利益・営業利益・経常利益・特別利益・税引前当期純利益・当期純利益
です。このうち、特別利益はその期限りの一過性の利益ですので売上との割合
を見てもあまり得られるものは多くありません。
また、税引前当期純利益と当期純利益とは、税金という会社が決定権を持たない
制度上の違いしかありません。
よってここでは、売上総利益・営業利益・経常利益・当期純利益の収益性に
ついて見ていきます。
これらの収益性の名称と意味は以下のようになっています。①売上高総利益率
売り上げに対する、商品・サービスそのものの収益性を見る
②売上高営業利益率
売り上げに対する主なビジネス(本業)の収益性を見る
③売上高経常利益率
売り上げに対する経営力の収益性を見る
④売上高当期純利益率
売り上げに対する会社の全活動の収益性を見る
この4つの収益性は、例えば会社が銀行から融資を受ける、あるいは投資家から
出資を受ける場合などに「収益性の判断材料」となるものです。
この4つの指標にその会社に今後も返済するだけの力があるか、あるいは投資に
値するかどうかが現れてくるということです。