自動車の設計、製造に起因するリコール届出内容から、企業の品質管理の
根本的な欠陥を指摘します。
下図は、国土交通省「平成 29年度リコール届出内容の分析結果について」
より引用した図です。
上記のうち「火災」につながる恐れのある事例は以下のようなものがあります。
では、上記の事例1について、なぜこのような事故が起こるのか
考えてみます。
この事例は31万7千台がリコール対象で、そのうち8件の発熱不具合が発生
しています。事故内容を詳しく見てみましょう。
■事故内容
「電源分配器の基板において、回路基板の製造時に不要なハンダが付着した
状態で防湿材がコーティングされたものであり、使用過程においてコーテ
ィングに亀裂が生じることがある。
そのため、高湿環境下において電極間の微細な導通が発生し電極成分が移動
し、短絡回路が形成されると、短絡電流の発熱によって、最悪の場合、車両
火災に至るおそれがある」
■不良が流出する原因
この事例の回路基板の欠陥は、ある条件が重なったときに事故につながります。
しかしその条件でテストを行わない限り、工場で検出することは事実上不可能
です。
この事例の不良が発生する条件は
①不要なハンダが付着したこと
②コーティングに亀裂が生じたこと
③高湿環境下で電極間が導通した
この3つの条件が重なったときに、車両火災が発生する恐れがあります。
潜在する問題とは、一般的な評価試験や検査では、きわめて発見される確率
が低い欠陥を指します。
この事例は、国交省の不具合発生原因分類では「製造に起因、工具・治具の問題」
に分類されていますが、本当に製造に起因する問題でしょうか?
原因1:検査の見逃し
回路基板を製造する工場で発生する問題は、その発生原因と流出原因を抑える
対策を行います。
上記の例では、まず回路基板を製造する工程では、不要なハンダを付着させない
対策に集中すれば良いということになります。
しかし、不要なハンダを付着させない対策にどれくらいの注意力、労力を払えば
いいかは、現場の判断に依存します。また人による検査では、ある一定確率で
不良が流出することは防ぐことができません。
このことから、検査を厳重に行っても不要ハンダ付着検出をゼロにすることは
困難と考えられます。
こう考えると、製造問題として片づけてしまうことは極めて無責任な判断である
といえます。
原因2:設計上の発煙対策不備
そもそも、回路基板設計時点で発煙発火に対する検証が十分だったでしょうか?電気回路を含む製品(コンポーネント)は、製造上、発生し得る不具合も含め
あらゆる角度から発煙・発火の可能性を検証しておく必要があります。
発煙発火のきっかけとなる「①不要なハンダが付着する」は、当然製造上の
問題です。しかし、上記のように製造工程や検査で100%検出することは
不可能であることから、このような製造上起こり得る問題も想定した上で、
回路基板設計をおこなうことが必要なことといえます。
・過電流検出回路を設ける
・発煙発火を生じない難燃剤を使用する
・回路基板の周囲に可燃材を近づけない構造とする
などが考えられます。
しかし、このような対策は、どれも価格アップ要素に繋がり、できるだけ安価
な構造を心掛けなければならない設計者にとっては、過剰な機能は避けて通る
傾向が強いと考えられます。
原因3:リスクマネジメントの不備
設計、試作評価、工程設計、製造準備、製造に至る工程で、考えられるリスクを
低減させる、リスクマネジメントの考え方は、一部の業種を除いて不十分と
考えられます。
不良率より、万が一不良が発生した時のリスクの大きさを定量的に捉えること
が重要となります。
FMEAや、リスクアセスメントの考え方により、半田ショート(故障モード)
が製品にどのような影響を及ぼすのかを検証する必要があり、試作評価で顕在
化した問題だけをモグラ叩き対策するする考え方から、脱出する必要があります。
上記のようなリコール問題は多くの企業で発生する可能性があり、このことが
リコールが減らない原因となっていると考えられます。
品質は90%は設計で作り込まれると言います。
製造工程において発生するリスクもカバーするものでなければ、良い設計とは
言えません。